Topics2021/09/14

数学の 基礎を紐解き 足固め

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 2021年8月3日から,東山先生(日本音響学会第42回功績賞御授章 「音響学のための線形代数」信号解析と音響学(シュプリンガージャパン)著者)による技術講習会「時間領域における音響波形解析」が全12回の予定で始まりました.
 講演会は,アルゴリズムの基礎となる数学を「試験で点数を取るため」ではなく「社会課題を解くための理解と利活用できるスキル」として学び直すことです.
 講義の範囲は,Sound in the Time Domainの3章までを予定しています.

Sound in the Time Domainの目次
1. 複素数と正弦波
1.1 単一周期波形
1.2 包絡線,ビート,変調,位相,基本周波数,倍音のみ,慨周期
1.3 相関
2. 単一波形のランダム化
3. フーリエ変換
3.1 畳み込み,母関数,フーリエ変換
3.2 時間遅延と畳み込み
3.3 フーリエ変換
3.4 三角窓と群遅延
3.5 周期関数
↑↑ 今回の技術講習会はここまで ↑↑
↓↓ 講習会の成果で挑戦する範囲 ↓↓
4. 差分方程式と単一周期波形
5. 離散信号と線形システム
6. 伝達関数と時間領域Sequence
7. 時間・周波数領域における信号のダイナミクス
8. 球音源の時間・周波数応答
9. 波形方程式と時間領域における汎用解法
10. 1次元空間における音線
11. 室の残響
12. 信号のダイナミクスと音源距離

 これまで7回の講習会が開催され,1回目は,三角形の基礎が波形解析に繋がるという大まかな話の流れが説明されました.三角比から分からない学生もいたため,ベクトルや複素数の話が出た際,大いに困惑し,今後の講座についていけるか不安に感じる学生もいました.
 2回目は,有理数と無理数から方程式に学びを進め,複素数の必要性について学びました.
 3回目は,周期的な波形の表現方法や,音の聞こえ方が振幅や振動数に関係していることを学び,実際に数学がどう使われているのかを知ることが出来ました.
 4回目は,波形の周期推定を行うため,時間間隔のヒストグラムを作成し,自己相関数列を学びました.
 5回目は,周期推定から自己相関関数を学び,楽器の音のような連続的な情報は,楽器のわずかな信号の揺らぎから,人の感じる周期(ピッチ感と基本周波数と最大公約数)を求めるのが難しいことを学びました.
 6回目は,波形解析に必要なもう一つの重要な数学である「統計」に学びを進めました.まずは,期待値と確率変数について学びました.しかし,確率変数の和を求めるために畳み込みという計算を行うのですが,その畳み込みが前回学んだ自己相関と似ており,学びの中の「気付き」で世界が繋がることに驚きました.

 今週開講された7回目では,ベクトルの数式表現について教わり,その計算方法が行列の計算であることを学びました.次回は,第8回目となり,7回目で教わったベクトルの中でも直交に焦点を当て,行列の計算を教わる予定です.
 全12回の折り返しを超え,ここから画像メディア等のメディア処理だけでなくCG制作や動画制作で使われる画像表現でも使われる「フーリエ変換」へと学びを進めていきます.メディア処理分野の基礎となる基礎技術です.

 講習会の時間は1時間半(90分)ですが,「意味」を理解し,実感を得るにはその数倍の予習復習時間が必要になります.しかし学びの甲斐もあり,1回目の講義では不安も多く,数学に苦手意識を持っていた学生も,数学の正しい使い方を知ることで,前向きに勉強を始める良いきっかけになっています.学ぶ前は「プログラムはやりたいことをプログラミング言語で表現すればいい」と思っていましたが「どうせ計算するなら意味を考えれば無駄なく(再読性が高くなります),数学に基づいて書くことで誰でもわかる」ことに気付きました.
 ガリレオ・ガリレイが「宇宙という書物は数学の言葉で書かれている」と言ったそうです.まだまだその域には至りませんが,少なくとも「システム開発,プログラミング」で重要な「アルゴリズム」が数学に基づいている(というか基づいていてくれれば良いことがある)ことが少し理解できました.

 また,宿題/課題が出ることで,理解を深めるために「自分の学び」をアウトプットする機会もあります.講評の中で,学生自身気づいていない長所を見出していただくなど,数学以外の気づきも多くあります.

 講習会の最後に到るフーリエ変換により様々な信号を分析・創造できるようになります.またこの「学び」を通して培った数学的思考力を活かし,より工学的な研究が行えることを期待しています.これからが楽しみです.